■開催日:2025年8月22日(金)
■会場:対面
■参加者:17名
■内容:市民協働をテーマに研修を行いました。レクチャーでは、障害者芸術文化活動普及支援事業を担当している厚生労働省の森真理子氏から、アートディレクターとして携わった「まいづるRB」についての事例紹介があり、その経験を踏まえて行政と民間が連携する際に押さえておきたいことを話していただきました。
■講師

森真理子(厚生労働省 社会・援護局障害保健福祉部 企画課 自立支援振興室 障害者文化芸術計画推進官)
美術館や京都造形芸術大学舞台芸術研究センターなどでの勤務を経て、2005年よりフリーランスで演劇、ダンス、音楽作品の企画制作を行う。2009年より京都府舞鶴市にて「まいづるRB」ディレクターを務め、自治体や福祉施設、特別支援学校、商店街などと連携したアートプロジェクトを展開(~2015年)。「六本木アートナイト2014」「さいたまトリエンナーレ2016」プログラム・ディレクター。2017年より日本財団DIVERSITY IN THE ARTSにて「True Colors Festival」プロデューサーを務め、2022年より現職。
赤れんが倉庫を活用したアートプロジェクト「まいづるRB」
今日は、前職までに関わった仕事やその中で得られた視点を軸としながら、お話します。2009年から2015年まで、京都府舞鶴市のアートプロジェクト「まいづるRB」のアートディレクターを務めていました。「RB」はRed Brick(赤れんが)の略です。アートプロジェクト発足のきっかけは市が所有する「舞鶴赤れんが倉庫群(旧海軍施設)」という歴史的建造物を活用した芸術文化事業を展開しようとする動きでした。初年度には、美術家・小山田徹さんによるインスタレーション「浮遊博物館」、演出家・松田正隆さんによる演劇作品、「都市日記 maizuru」、ダンス公演「踊りに行くぜ!!in舞鶴」「とつとつダンス」など、倉庫そのものを舞台装置とした多彩な芸術作品を展開。アーティストとともに市内の各所をリサーチし、作品テーマや協働相手を模索しました。
2年目以降は予算状況や指定管理者の変化があり、活動が制限された面もあったのですが、一方で活動の協働相手の多様化や、活動場所の広域化につながりました。特別養護老人ホームでのダンスワークショップ、商店街の空き店舗をアートスペースとして転用した「yashima art port」などのほか、地元作家や職人、市職員や市民など多様な人々が船づくりに参加するプロジェクト「種は船 in 舞鶴」を開催。アーティストの日比野克彦さんによるこのプロジェクトでは、段ボールと紙で模型船を制作した後、自走する実際の船をつくり、舞鶴を越えて日本海を北上して新潟までを目指す航海へと発展しました。
「まいづるRB」を参考にした京都府内の他事業への展開のほか、文化庁長官賞など外部評価もいただきました。その一方で、内部では体制や予算の不安定さもあり、自治体も意義や目的を模索していたのではないかと感じます。その地域特有の資源や人材から事業を導き出す視点が軸になると感じました。

「踊りに行くぜ‼ in 舞鶴」(2009 年)。ダンサーの森下真樹さんと音楽家の宮嶋哉行さんによるパフォーマンスの様子。倉庫そのものを舞台装置とした多彩な芸術作品を展開。作品づくりでは、アーティストとともに市内の各所をリサーチし、作品テーマや協働相手を模索した
市民協働の背景を整理
「市民協働」とは、行政と市民らが対等な関係で、互いの資源や専門性を活かし、協力して地域社会の課題解決やまちづくりに取り組むことと言われます。関連資料などをもとに、市民協働の考え方がどのように生まれたかをたどっていきたいと思います。
高度経済成長期を経て生活水準が向上する中で、住民が行政に求めるサービスは、道路や公共施設の整備といった従来の画一的なものから、福祉、環境、子育てなど多様な分野に広がってきました。バブル経済崩壊後、行政は財政面での制約を抱えるようになるとともに、1990年代以降の地方分権改革も進むなかで、住民ニーズへの対応にはより多様な主体との協働が重要となっていきます。さらに1995年の阪神・淡路大震災では、ボランティアや市民団体の力が広く注目されるようになりました。その後、1998年には「特定非営利活動促進法(NPO法)」が制定され、市民活動を支援する法制度が整備されました。こうした流れの中で、住民自身が地域の課題解決に主体的に関わろうとする意識も高まり、行政と市民がそれぞれの役割を担いながら、共に地域課題の解決に取り組むという「市民協働」の考え方が広がっていきました。
障書者芸術文化活動普及支援事業における連携や協働を考える
最後に、「まいづるRB」での経験から、支援センターと行政の連携や協働を考えるときに押さえておきたい点をまとめてみます。
まず障害者芸術文化活動普及支援事業は、障害福祉と文化芸術の分野を横断して事業を行う点が特徴です。これらの分野は、行政では異なる部署が担当課となります。多岐にわたる芸術分野、障害の種別や程度、事業内容を視野に入れることが必要です。ただし、中間支援業務を行う際、自分たちが常にプレーヤーである必要はないと思います。リソースが限られる支援センターでは、すべてを担おうと気負うのではなく、協力者とつながっていくことも重要です。「まいづるRB」も、協力してくれる人となるべくつながっていくという視点をもって、続けてきました。地域や障害のある人をはじめ関わった人たちに何が残されていくかを想像することが求められると思います。
どんな事業にも言えることですが、予算や人員体制のほか、地域で行う活動の場合、人口やニーズなどの地域特性を見極めることも大事です。各自治体がどのように予算を組むか、自治体と支援センターの担当者が普段からどのようなやり取りを重ねていくか、といった視点や、人口や生業といった地域特性のデータを押さえおくことも大切なポイントになると思います。
また、「どこを最優先にするか」という重点項目をしぼり、「何ができれば目標達成か」という評価の基準をあらかじめ明確にしておくことも重要ではないかと思います。

研修当日の様子。「市民協働」とは、行政と市民らが対等に、協力して地域の課題解決やまちづくりに取り組むこと。高度経済成長期以降、市民協働の考え方がどのように生まれたかが紹介された
(構成:彌田円賀)


