■開催日:2025年9月24日(金)14:00-16:00
■会場:オンライン
■参加者:14名
■内容:俳優の大石将弘氏を講師に迎え、障害のある人と一緒に演劇をつくったり楽しんだりする場づくりのノウハウや、それらの取り組みに対するアーティストの視点を紹介していただきました。
■講師

大石将弘(俳優/きくたびプロジェクト企画・制作)
奈良県出身。ままごと、ナイロン100℃に所属し多くの演劇作品に出演。また、劇場外で展開する演劇に多数関わるほか、ろう者と聴者が共同創作を行った『視覚言語がつくる演劇のことば』(KAAT)への参加、視覚障害者とともに場所の散策と対話から“聴く演劇”を創作する「きくたびプロジェクト」の立ち上げなど、さまざまな場所や人とともにつくる演劇と演技を探求している。
聴く演劇、「きくたびプロジェクト」
「きくたびプロジェクト」は、「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」のメンバーとともに2017年に活動を開始しました。演劇的な仕掛けのある音声(=「聴く演劇」)を制作し、それを指定する場所で聞いてもらうというものです。想像力を働かせながら音声を聞くことで、今いる場所の風景とフィクションとが混ざり合う楽しさを作品化できればと思っています。目の見える人も見えない人も面白い体験ができるようにするという視点を大事にしています。
これまでに、次のような取り組みをしました。
・「横浜美術館コレクション編」(2018年):横浜美術館の展示空間を題材に3名の俳優が15の「音声」作品を制作
・「HOME編」(2020年):コロナ禍で外出自粛が要請されるなか、台所や近所の公園などの身近な空間を題材にして制作
・「みんなで創作編」(2025年):有楽町のビルと新宿御苑、函館美術館、江戸東京たてもの園で実施した創作ワークショップ。参加者と一緒に散策し、気になった風景から空想を広げて音声を創作

「きくたびプロジェクト」による「風景と空想から『聴く演劇』をつくるワークショップ」(2025 年)は、有楽町の建て替え予定のビルと新宿御苑で実施。集まった参加者とともに街中を散策し、気になった風景から空想を広げて音声を創作した
創作ワークショップを行うに当たっては、どういうワークショップにすれば良いかという時点から視覚障害のある人を含むメンバー全員と話したり、実際に新宿御苑に行って試行したりして、一緒に進めていきました。障害のある人と一緒にプロジェクトを進めるとき、教える、教わるという関係ではなく、それぞれの経験を生かすことを大切にしています。というのも演劇は集団でつくるものなので、自分と異なる視点や経験、発想の重ね合わせを大切にすることで豊かな表現ができると思っています。
創作ワークショップの取り組みを振り返り、自由度と難易度の設定が難しいと感じています。これについては、ワークショップを実施するたびに設定を変えて、ちょうどいいバランスを探っています。また、つくる経験を経ると創作物への感じ方が変わるかもしれないことに気付きました。ワークショップでは、各自が創作した音声作品を最後に、みんなで聞く時間があり、そのときお互いの作品を素直に讃え合おうという雰囲気になっていました。苦難を一緒に乗り越えながら制作したからかもしれません。
福祉施設での、「演劇であたらしい表現をみつけるプロジェクト」
2023年に埼玉県の福祉施設、川口太陽の家で「演劇であたらしい表現をみつけるプロジェクト」を行いました。福祉とは異なる視点を持つ演劇のアーティストが関わることで、新しい表現が生まれるのではないかと始まったプロジェクトです。アートセンター集が主催で、藤原顕太さん(一般社団法人ベンチ)が企画とコーディネートをしてくださいました。 7月に顔合わせを兼ねて1回目のワークショップを行いました。まず驚いたのは、時間の使い方や遊び方に職員さんのアイデアがたくさんあること。普段の活動がそもそもクリエイティブだと感じました。8月はジェスチャーゲームや動きをまねする遊びなど、日常のレクリエーションの延長で演劇的なものに取り組んでもらいました。即興でリレー作文から劇をつくる試みも行い、とても盛り上がりました。9月と10月は「最高の一日」をテーマに集団で劇をつくり、2024年1月に発表会を開催しました。

「演劇であたらしい表現をみつけるプロジェクト」(2024 ~ 2025年)。みぬま福祉会の「川口太陽の家」(埼玉県)で行った回では、ジェスチャーゲーム、リレー作文からの劇づくりなどを通して、一人ひとりの表現を発掘。活動を披露する場として、発表会「○○なお正月」を開催した
2024年には大宮太陽の家でプロジェクトを行いました。6月に見学と顔合わせ、7月と9月にワークショップ「大きな模造紙にみんなで描く(オリジナル巨大かるたをつくろう)」「お散歩にでかけて音を拾い集める(音をからだで表す)」を行いました。10月は「ひとりひとりのハッピーな瞬間を上演する」を行いました。ここでは集団ではなく個人の制作としました。それぞれがハッピーでいるために必要なことを引き出すため、職員さんにサポートしてもらいながら一人ひとりとコミュニケーションをとりました。できるだけ利用者さんが主体的に、納得して行えるようにしたいと思っています。それが、私が俳優として考える「いい演技」の大切な要素の一つだからです。何もしないことがハッピーであってもいい。みんなが無理なく過ごせることが理想だと考えました。
福祉施設のプロジェクトを振り返ると、職員さんの技や芸、アイデアに支えられた時間だったと感じます。また、言語によるコミュニケーションができる人もいれば難しい人もいるなかで、正確なやりとりよりも「今ここで同じ場所にいて、何かを交わしている感触を楽しむこと」が大事なのではないかと感じました。演劇は、非効率で無駄なことから生まれるものとも言えます。例えば時間に追われて効率よくしようとしてしまうと、演劇の本質とは離れてしまいます。効率や正確性にとらわれず、見えない何かを楽しむ時間になると良いのではないかと、あらためて感じました。
https://artcenter-syu.com/topics/engeki2024/
(構成:彌田円賀)


