
■開催概要
うみのもりの玉手箱5 関連イベント「つくる・つたえる・つながるサミットvol.2」
会期:2026年2月1日(日)13:30~15:30
会場:千葉県立美術館 第2アトリエ(千葉県千葉市中央区中央港1-10-1)/参加無料
主催:千葉県、南関東・甲信障害者アートサポートセンター(社会福祉法人みぬま福祉会)
協力:千葉県障害者芸術文化活動支援センター うみのもり
助成:厚生労働省 令和7年度障害者芸術文化活動普及支援事業
■イベント概要
展覧会「うみのもりの玉手箱5」の関連企画として「つくる・つたえる・つながるサミットvol.2」を実施。2024年度に続いて2回目の開催です。第一部では展覧会で作品を鑑賞しながら交流を深めるギャラリーツアーを実施し、出展団体や山梨県支援センターと山梨県からの招聘作家も作品を紹介しました。さらに、美術館と連携して同館の別会場で行われていた、作品にさわれる展覧会「彫刻に触れるとき-『さわる』と『みる』がであう彫刻展2026」の鑑賞ツアーも行い、多様な作品に触れました。
第二部では障害者芸術文化支援センター(以下、支援センター)によるトークイベントを実施しました。
■登壇者
中澤里子(千葉県環境生活部スポーツ・文化局文化振興課)
こまちだたまお(千葉県障害者芸術文化活動支援センター うみのもり)
瀧澤聰(YAN 山梨アール・ブリュットネットワークセンター)
城田侑希(埼玉県障害者芸術文化活動支援センター アートセンター集)
■司会:藤原顕太(一般社団法人ベンチ)
【トークイベント】福祉施設での表現活動を深めるために必要なことは?~南関東・甲信エリアの障害者芸術文化活動支援センターの事例から考える~
5度目の開催となる公募展「うみのもりの玉手箱」。トークイベントではまず、今回の企画やこれまでの経緯について、県の担当者と支援センターがそれぞれの視点で話しました。そのあと山梨県と埼玉県の支援センターからスタッフが登壇し、各支援センターの活動や大事にしていることを紹介。参加者からの質問や意見交換も行い、福祉施設での表現活動を深めるために必要な「表現活動を通したネットワークづくり」についてともに考えました。
支援センター事業を複数年度事業化-千葉県環境生活部スポーツ・文化局文化振興課

千葉県環境生活部スポーツ・文化局文化振興課企画調整班班長。2025 年4 月から文化振興課に所属。企画調整班では障害者芸術文化活動支援事業や若手アーティストの支援事業を担当。
トークの冒頭では、千葉県での障害者芸術文化活動の取り組みをどのように進めているか、文化振興課の中澤里子さんから説明がありました。
障害の有無などにかかわらず、誰もが等しく文化芸術を楽しむことができるような環境の整備を基本理念とする「千葉県文化芸術の振興に関する条例」が2018年に施行。条例の方針を踏まえて、2019年度に支援センターを補助事業でスタートしました。現在では委託事業としており、千葉県障害者芸術文化活動支援センターうみのもり(以下、うみのもり)に委託しています。
また、2021年3月には「千葉県障害者文化芸術活動推進計画」を策定しました。この計画では「障害のある人による文化芸術活動の幅広い促進」「障害のある人による芸術上価値が高い作品等の創造に対する支援の強化」「地域における、障者者芸術を通じた交流の促進による、心豊かに暮らすことのできる住みよい地域社会の実現」という3つの柱を掲げています。
こうした方針があるなか、2025年度からは支援センター事業を3年間の契約で実施しています。中澤さんは、「一般的に行政の取り組みは単年度が多いのですが、単年度だと利用者に対する継続的な支援が難しいといった課題がありました。複数年度事業とすることで継続的な支援が可能になるとともに、支援センターの事業運営ノウハウの蓄積や人材の育成、関係団体とのネットワークの構築など、長期的な視点を取り入れた事業運営ができるようになります」と話しました。こうした環境整備により、障害のある人の文化芸術活動の裾野を広げています。支援センターの具体的な活動については、うみのもりのセンター長であるこまちだたまおさんにバトンタッチしました。

千葉県障害者文化芸術活動推進計画での3つの柱
1年間の集大成として展覧会を開催-千葉県障害者芸術文化活動支援センター うみのもり

千葉県障害者芸術文化活動支援センター うみのもりセンター長。1998年より、たまあーと創作工房 こども教室美術教室を千葉県・上総一ノ宮に開設し、1歳から 200歳までのボーダーレスなアートの共育活動に取り組む。2019年に株式会社いろだまを設立、代表取締役に就任。2020年より現職。
こまちだたまおさんは1998年、長生郡一宮町で「たまあーと創作工房 こども教室 美術教室」を開室。「はじめたときから、障害のある人も来てくれるだろうと思っていました」と言います。現在、月に約30カ所で出張授業を実施するほか、展覧会の企画運営、アートと福祉を通じた地域創生事業、ワークショップなどを行っています。
うみのもりでの普段の活動は、人材育成講座の実施や相談業務が中心です。今までに著作権の講座、音楽のワークショップ、車いすの人も舞台が使える東総文化会館で舞台芸術分野のワークショップなどを行いました。「当センターの相談支援には、発表の場がほしいという相談が多く寄せられます」とこまちださんは話しました。そうした相談に対しては、障害のある方による文化芸術活動を登録できる機関や公募展を紹介しています。そのほか、指導者を紹介してほしい、画材を知りたいといった相談も多いとのことです。そして今回で5回目となる展覧会「うみのもりの玉手箱」は、「支援センターの1年の集大成として、また厚生労働省のミッションの1つ『発表の機会等の創出』として開催しています」とこまちださん。
また、千葉県で支援センターが複数年度事業になったことについては、「一番のメリットは第一に展覧会や講座の参加者に『また来年もあるので参加してください』と伝えられること。特に、心に不安をもつ精神障害のある人には、そう言うと安心してもらえます」と話しました。次年度に向けての明瞭な改善策を立てられることや、講座や展覧会の会場の予約がしやすい点でも大きなメリットがあると言います。「継続して事業をできることが、参加者の皆さんの支えになると考えています」と締めくくりました。

展覧会「うみのもりの玉手箱5」でのギャラリーツアーの様子
千葉県障害者芸術文化活動支援センターうみのもり
「多種多様な生き物を養い、海そのものの水質をも浄化する、海中の藻場のようでありたい」という想いを込めて2020年に開設。子どもや大人、障害のある人も通う運営母体の造形教室のノウハウを活かして表現を楽しむ場づくりに力を入れている。
発信の場づくりを伴走支援-YAN 山梨アール・ブリュットネットワークセンター

YAN 山梨アール・ブリュットネットワークセンター長。2014年に社会福祉法人八ヶ岳名水会入職。2016年にYAN 山梨アール・ブリュットネットワークセンター事務局へ。2019年より現職。
YAN山梨アール・ブリュットネットワークセンター(以下、YAN)では「アートカフェミーティング」と呼ばれる活動を継続的に実施しており、相談の連絡があった団体などに訪問して問題解決につなげています。トークイベントでは2つの事例が紹介されました。
今回の「うみのもりの玉手箱」には、山梨県の作家も2名出展しています。その一人、食品サンプルの技法で作品をつくるフードフィギュアの 作家、坂本絵里さんから「作品がたまる一方で、販売したいが、初めてでどうしていいかわからない」という相談を受けました。そこで、YANは地元で開催されるマルシェへの参加を提案。申請書の書き方や値段のつけ方、ディスプレイの計画から、当日の設営、片付けまで伴走しました。坂本さんには、過去にYANがワークショプを依頼したことがあったため、「マルシェ当日にワークショップを行ってはどうか」という提案もしました。当日、かき氷をつくるワークショップが実現し、来場者にも好評でした。坂本さんは次もチャレンジしたい、と前向きに語ってくれました。

マルシェでの販売の様子。値札の書き方やディスプレイ方法も相談しながら進めた
2つ目の事例は、アート教室からの「教室を知ってもらえる機会をつくり、新規生徒を増やしたい」という相談。山間部にあり、近くに学校やコミュニティが少なく周知に苦労しているとのことでした。YANは、障害のある人もない人も参加できるワークショップイベント「スチレン板回転版画づくり」を提案。地域の商店や公民館、特別支援学校、日中活動事業所などにチラシやメールなどで周知。当日は満員になったそうです。「作品づくりのプロセスにも参加者それぞれ個性があり、楽しみながら版画をつくってもらえた」と瀧澤さん。イベント終了後は、自分たちの事業所でもやってみたい、という参加者もいたため、「スチレン版回転版画」の手順書、準備物一覧、材料の入手先などをまとめた資料も共有しました。YANも、この取り組みで新しい人や団体とのつながりができたと言います。

ワークショップイベント「スチレン板回転版画づくり」当日の様子。完成後はそれぞれの作品を紹介する鑑賞タイムも。
YAN 山梨アール・ブリュットネットワークセンター
山梨県における障害のある人の芸術文化活動を支える拠点として設立。県内の福祉・文化・教育機関と連携し、創作活動の支援や展覧会の企画、情報発信を行う。地域に根ざしたネットワークを築き、多様な表現が継続的に育まれる環境づくりに取り組んでいる。
作品展示の本質を語り合う場面も-埼玉県障害者芸術文化活動支援センター アートセンター集

アートセンター集スタッフ。2013年社会福祉法人みぬま福祉会に入職し、生活支援員として工房集に配属。2016年より埼玉県障害者芸術文化活動支援センターを兼務。
2016年に埼玉県の支援センターとしてアートセンター集を立ち上げ、同時に「埼玉県障害者アートネットワークTAMAP±〇」(以下、タマップ)をスタートしました。タマップの活動の大きな柱となるのは、埼玉県障害者アート企画展の企画運営です。2025年で16回目となった企画展。最初は埼玉県が実施していましたが、アートセンター集がスタートしてからは官民連携で開催しています。
企画展の開催に向けては、まず福祉施設などから提出された調査票をもとに選考会を行います。2025年に集まった調査票は650件程。選考会には美術の専門家だけでなく、タマップの福祉現場の職員も関わっています。選考会に向けて、どういう視点が大切かを知るための研修を行い、「美術的視点だけでなく直感的なものも大切だと知れて良かった」「いろんな視点を交えて選考することの大切さを学べた」という感想がありました。普段の支援に絡めて、利用者との向き合い方を振り返る機会にもなっているようです。
また、選考会を経て、このような感想があったそうです。「アート企画展は、たとえば新聞紙を裂いたり丸めたりといった、行為性の高い作品が展示される貴重な機会ですが、穏やかに過ごせていれば必要のない行為もあり、展示され、評価されればいいとは限らないことに改めて気づきました」。ただ作品としておもしろいだけでなく、その行為が本人にとってどういうものか、展示されることは本質的にどうなのかと選考会の際に意見が交わされることもあります。
展示作業もタマップが中心となって、いくつかのグループにわかれてノウハウやアイデアを共有し、監修の先生に助言をもらいながら行います。「この経験を生かして、自分たちの事業所でも展覧会をやりたい」という声もあり、県内の芸術文化活動が広がる可能性を感じています。

選考会の様子

展覧会設営時の集合写真
埼玉県障害者芸術文化活動支援センター アートセンター集
埼玉県で、障害のある人の芸術文化活動を支える拠点。福祉や文化の現場とゆるやかにつながりながら、創作の相談支援や展覧会の企画、情報発信などを行う。多様な表現が身近な地域で育まれる環境づくりを大切にしている。
【質疑応答】
トークイベントの参加者から寄せられた質問に、登壇者が答えました。また、登壇者による発表のあとに、登壇者も含めてテーブルごとに意見交換を行いました。意見交換では、発表の感想や、参加者の取り組みなどを共有し、交流を深めました。
Q. アート活動の継続の方法について聞きたいです。施設の利用者さんに対して、どのように芸術活動を提供していくとよいでしょうか。
A. 施設で初めて取り組むなら、例えば月1、2回ほど利用者さんに画材や技法を体験してもらう機会をつくるのが、やりやすいのではないでしょうか。利用者さんに何が合うかを知ると同時に、職員さんにもさまざまな方法があることを知ってほしいです。数年続けると施設の方針も見えてくると思うので、積極的に活動したい場合は画材を購入し、日常的に活動できるようになるという流れができるかもしれません。さらにそこから絵なのか、クラフトなのかといった、その人に合った技法や素材の分岐点があらわれると思います。(こまちだたまお)
Q. 障害のある人の状況は人それぞれですが、その人に合わせた支援を判断するにはどう考えていくと良いでしょうか。
A. 私たちの支援センターでは、相談者がまず何をやりたいか、じっくりとヒアリングすることを大事にしています。そこから具体的な提案につなげています。例えば、坂本絵里さんへのワークショップの提案も、対話をするなかでこれができるんじゃないか、成功すれば自信につながるのでは、という視点で提案しました。(瀧澤聰)
Q. 展覧会の開催で一番苦労している点を教えてください。
A. 埼玉県の企画展の場合は、連絡調整が一番大変です。どんな展覧会をやるかによって変わりますが、施設内で開催する場合は、福祉の現場が人手不足のなかで準備などに時間を割くことも難しいのではないでしょうか。施設内で、共感してもらえる仲間を増やしていくことも大切だと思います。(城田侑希)

【意見交換】
後半の意見交換でのグループ共有では、次のようなコメントがありました。
・こまちださんが訪問している施設だけでなく独自にアート活動を深めている施設もあり、
施設毎の取り組みの多様さを感じました。
・このグループでは、福祉関係者は自分だけでしたが、自治体の方など、アール・ブリュットに興味があって参加してくださり、作品が多くの方に届いていて嬉しいです。
・支援センターや事業所の話を伺い勉強になりました。今回のつながりを大切にして、他の事業所のアトリエに見学に行くなど、活動にいかしていきたいと思います。
・グループには教員や福祉事業所の方、療育の先生、行政など、様々な立場の方がいました。それぞれ障害のある方のアート活動については前向きな想いがあるが、困りごともあると思います。千葉では美術の専門家の方がセンターを担当されているので、相談後のイメージがよくわかりました。
・グループには千葉県内の福祉事業所の職員が多かったです。年配の職員がよかれと思って仲間の絵に手を出すのに困っていましたが、瀧澤さんから、職員も作品を作っていいというルールを取り入れて、徐々にその職員の意識が変わったというお話がありました。「待つ」、「許す」という支援の視点は職員にも必要だと感じました。チームなので職員間の関係にも生かしたいです。
・子供の学校からこのイベントの案内をもらい参加しました。玉手箱展の作品の多さに驚きました。また、カラフルで個性豊かでした。子供に障害があり、服を破るようになりましたが、破った服をパネルに入れた作品を見て、嬉しい衝撃がありました。関係者の話を聞いて、アートに正解はなく、それぞれの表現で良いこと、手を加えないことの大切さ、こまちださんにもアドバイスを頂きましたが、待つだけでも良い、ゆっくりと構えることの大切さなどを改めて知りました。子供が通所する予定の生活介護事業所では作業数は多くありませんが、こまちださんからアート活動を取り入れることで変化があると伺ったので施設に提案していきたいです。この活動が広まることを願っています。

登壇者も参加したグループディスカッション
【司会・モデレーター】

南関東・甲信障害者アートサポートセンターに事業アドバイザーとして関わる。芸術文化コーディネーター、社会福祉士。福祉系大学を卒業し舞台芸術のマネジメントに携わった後、福祉と芸術に関わる活動を開始。高齢者福祉施設でのアーティスト・イン・レジデンス、障害がある人の芸術文化活動支援、アートの相談支援・人材育成等に携わる。

「よろこび!」がテーマの公募展。絵画や彫刻(立体)、写真、書、クラフト、詩、フラッグなどの多様な作品が集まりました。
会期:2026年1月20日(火)~2月1日(日)9:00〜16:30/1月26日休館
会場:千葉県立美術館第5展示室/入場無料
主催:千葉県/運営:千葉県障害者芸術文化活動支援センター うみのもり
構成:彌田円賀
撮影:鈴木広一郎

