南関東・甲信ブロック合同企画展2023 撮影:鈴木広一郎
神奈川県障がい者芸術文化活動支援センター
アートセンター集 撮影:鈴木広一郎
東京アートサポートセンターRights(ライツ) 撮影:たかはしじゅんいち
YAN 山梨アール・ブリュットネットワークセンター 写真:本杉郁雲
千葉アール・ブリュットセンター うみのもり
南関東・甲信ブロック合同企画展2023 撮影:鈴木広一郎
神奈川県障がい者芸術文化活動支援センター
アートセンター集 撮影:鈴木広一郎
東京アートサポートセンターRights(ライツ) 撮影:たかはしじゅんいち
YAN 山梨アール・ブリュットネットワークセンター 写真:本杉郁雲
千葉アール・ブリュットセンター うみのもり

その根底にあるのは、一人ひとりが主体的に生きていること、豊かに生きていること。楽しく暮らしていること。
障害のある人の芸術文化活動の支援とさらなる普及を目指し、
南関東・甲信ブロック内の支援センターと共働により広域での活動を展開します。
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研修「ソーシャルデザインによる支援の仕組みづくりを学ぶ」

■開催日:2022 年 10月 5 日(水)14:00 ~ 16:00
■会場:オンライン
■参加者:19 名


 

■講師

福島治 ふくしま・おさむ (グラフィックデザイナー/東京工芸大学デザイン学科教授)
1958年広島生まれ。日本デザイナー学院広島校卒業。浅葉克己デザイン室、KDKを経て1999年福島デザイン設立。被災地支援プロジェクト「unicef祈りのツリー」「JAGDAやさしいハンカチ」「おいしい東北パッケージデザイン展」などデザインにおける社会貢献の可能性を探求、実践する。世界ポスタートリエンナーレトヤマ・グランプリ、メキシコ国際ポスタービエンナーレ第1位、カンヌ広告フェスティバル金賞、2021年度には「障害者の生涯学習支援活動」に係る文部科学大臣表彰受賞。など国内外の30以上の賞を受賞。 AGI、JAGDA、TDC会員。東京工芸大学デザイン学科教授、 日本デザイナー学院顧問、公益財団法人みらいRITA理事、一般財団法人森から海へ理事。

 

■概要
創作活動と社会をつなぐ仕組みをデザインする

障害のある人の創作活動と、地域や企業とを結びつけ、さまざまなプロジェクトを実践する福島氏。30年間商業的なデザインに携わったのち、2009年からは、社会をよりよくする仕組みをつくり可視化する「ソーシャルデザイン」を専門に活動を始めました。その活動の中心に据えているのが、障害のある人々による創作活動と社会をつなぐ仕組みづくりです。福島氏が、障害のあるアーティストたちの創作に出会ったのは2005年。作家や福祉施設と交流を深めるなかで、彼らを取り巻く問題、ひいては社会が抱える問題が見え、展覧会の企画などを通して支援を行ってきました。2018年には仲間とともに株式会社フクフクプラスを立ち上げ、障害のある人々の表現から利益を生み出し、作家本人をはじめ、各所に還元する仕組みのデザインを本格的にスタートさせます。企業を主な対象としたアートレンタルや対話型アート鑑賞の事業のほか、東京2020オリンピック・パラリンピックを契機とした自治体とのプロジェクトなど、「つなぐデザイン」をキーワードに、多岐にわたる活動を展開しています。


「シブヤフォント」は、渋谷区庁舎のサインとしてさまざまな場所に使用。


2020年からスタートした「アートパラ深川おしゃべりな芸術祭」は、2023年には約650点が屋外展示されている(写真は2021年)。

 

■事例紹介
つながる仕組み、3つのプロジェクト

福島さんが研修で紹介した取り組みのなかから3つの事例を紹介。
それぞれのプロジェクトに込められた「つながる仕組み」とは?

 


■事例1
デザイナーと社会貢献の仕組みを開発
JAGDAつながりの展覧会

 

日本グラフィックデザイン協会(JAGDA)では、2017年度から4年間、東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて、障害のあるアーティストとデザイナーがコラボレーションし、商品開発と販売を通してアーティストとパラリンピアンへの支援を行いました。1年目はマスキングテープを制作。各所に丁寧に企画を説明し、製造業者に原価のみでの制作を承諾してもらいました。販売価格400円のうち半分が原価ですが、残りをアーティストと日本パラリンピアンズ協会へ、100円ずつ寄付。普段サポートを受ける側であるアーティストが、社会貢献できる仕組みをつくりました。


コラボレーションによって生み出されたマスキングテープの絵柄。年間8万個の販売となった。

 


■事例2
小さな魅力を集めてオープンフォント化
シブヤフォント

 

福祉施設と一緒に「新しい渋谷土産をつくる」というミッションを渋谷区から依頼され、スタートしました。完成度の高い作品はつくれなくても、創作活動が好きな方はたくさんいます。そんな方々の創作活動の可能性を広げ、収入支援につなげたのがこのプロジェクトです。何気なく描かれた絵の一部を拾い上げて、足し算と引き算をしながらデザインし、フォント化。アルファベットを中心に50 種類ある「シブヤフォント」は、無料でダウンロードできますが、営利目的で使用する際は有料となり、工賃アップにつながります。データのやりとりなので、施設の方に負担がかからないことも、この仕組みの革新的なところです。


シブヤフォントの一例。

 


■事例3
審査を通して仲間になる
アートパラ深川おしゃべりな芸術祭

 

まち全体を美術館にすることで、一人でも多くの人が障害のある人の表現と出会う、そのきっかけをつくりたいという思いを長年持ち続けて、ようやく実現したのがこの芸術祭です。人や作品とおしゃべりをしながら楽しめる、対話でつながる芸術祭。名称にはそんな意味を込めています。作品はコンペ形式で全国から公募し、江東区内の神社や庭園、商店街、公共施設などさまざまな場所に展示しています。その審査にも、つながる仕組みがあります。専門家以外にも、芸術祭のパートナー企業の代表に審査に参加してもらい、企業としてではなく「自分自身が心動かされた作品を選んでください」とお願いしています。そうすると、選んだ作品や作家におのずと興味を持ってくれますし、会社の商品パッケージに作品を起用するような動きにもつながっていきます。一個人として審査に参加することで仲間になっていただく、そんな仕組みです。

 


審査への参加を経て、作品がワインボトルのラベルに起用された例も。

 


<研修参加者アンケートより>

・芸術活動をコミュニケーションツールとして、障害のある人と地域などが出会い、つながることで、「障害のある人」という単一の枠ではない、どんな人間もそうであるように、多面性をもつ個人として普遍的にとらえてもらい、個々の特性を活かしていけるようなアプローチや仕組みづくり、場づくりを、支援センターとして今後も考え取り組んでいきたいと感じた。「福祉の押し売りになってはいけない」という部分がとても印象に残った。(ブロック内支援センター職員)

・「福祉関係者の中だけでモノを作り販路を開拓することは難しい」ということをまず認識されていない関係者が多く、狭い範囲で活動する事業所が多い。デザイン(専門家)の力を借りれば社会とつながる商品作りが可能であるということを説明するにあたっての考え方を伝えていただけた回でした。デザインが可視化だけでなく、仕組みを作る役割もあることを改めて知りました。仕組みとして企業や多くの一般人が関わることで、一過性・一回きりのことではなく、継続的に作家の社会参加、還元につなげる事業にできることを学びました。(ブロック内支援センター職員)

・普段は支援を受けている障害者アーティストがデザインの力で社会貢献ができる仕組みを構築されていることにも感銘を受けました。(ブロック内自治体職員)

・「おしゃれ=デザイン」、という漠然とした考え方をしていたが、「デザインは福祉・社会・市民をつなぐもの、生きていくための知恵」という言葉が強く印象に残った。(他ブロック支援センター職員)

 

(構成:坂本のどか)