南関東・甲信ブロック合同企画展2023 撮影:鈴木広一郎
神奈川県障がい者芸術文化活動支援センター
アートセンター集 撮影:鈴木広一郎
東京アートサポートセンターRights(ライツ) 撮影:たかはしじゅんいち
YAN 山梨アール・ブリュットネットワークセンター 写真:本杉郁雲
千葉アール・ブリュットセンター うみのもり
南関東・甲信ブロック合同企画展2023 撮影:鈴木広一郎
神奈川県障がい者芸術文化活動支援センター
アートセンター集 撮影:鈴木広一郎
東京アートサポートセンターRights(ライツ) 撮影:たかはしじゅんいち
YAN 山梨アール・ブリュットネットワークセンター 写真:本杉郁雲
千葉アール・ブリュットセンター うみのもり

その根底にあるのは、一人ひとりが主体的に生きていること、豊かに生きていること。楽しく暮らしていること。
障害のある人の芸術文化活動の支援とさらなる普及を目指し、
南関東・甲信ブロック内の支援センターと共働により広域での活動を展開します。
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研修「支援センターによる中間支援の取り組みを学ぶ」

■開催日:2022 年 9 月 6 日(火)14:00 ~ 16:00
■会場:オンライン
■参加者:34 名


 

■講師

柴崎由美子 しばさき・ゆみこ (障害者芸術活動支援センター@ 宮城〈SOUP〉)
1973年宮城県生まれ。NPO法人エイブル・アート・ジャパン事務局長、代表理事。芸術大学在学中に障害のある人の作品に出会い、制作の現場に関わりたいとの思いから、1997年から奈良市の「たんぽぽの家」の活動に参加。2004年たんぽぽの家アートセンターHANAの開設に関わり、2009年までディレクター。2007年エイブルアート・カンパニー事業をスタートし現在は東北事務局を兼任。2011年の東日本大震災後、東北の障害のある人たちに向き合いたいと考え、関東・東北地域のアーティスト・リサーチなどに関わる。


樋口龍二 ひぐち・りゅうじ  (FACT 福岡県障がい者文化芸術活動支援センター)
1974年福岡県生まれ。1997年に福祉作業所「工房まる」と出会い、障害のある人たちの表現に魅了され転職。2007年よりNPO法人まる代表理事を務める。東京と奈良のNPOと共同設立した「エイブルアート・カンパニー」福岡事務局長を兼任。2015年に福祉事業所の商品と物語を発信する「(株)ふくしごと」を、地元企業やクリエーターたちと共同設立。障害のある人たちのアートを仕事につなげるなど、多様な人たちを包括できる社会を目指してさまざまなプロジェクトに取り組んでいる。

 

■概要
宮城のSOUPと福岡のFACT

研修の前半では、柴崎氏と樋口氏がそれぞれの活動についてプレゼンテーションし、後半では3つのテーマについて話しました。ともに、エイブルアート(可能性の芸術)の概念を生んだ奈良市の「たんぽぽの家」で多くを学び、プロジェクトを協業してきた同志でもある二人。柴崎氏は現在、NPO法人エイブル・アート・ジャパン代表を務めながら、地元宮城県でSOUPとして活動を展開しています。プレゼンでは、垣根を越えたネットワークづくりにおいて重要な点として、市や県、行政の課をまたいで定期的に実施する委員会や、年に一度、市や県とともに開催する展示会「見本市」について紹介。また、施設に属さない個人作家に情報を届けるための取り組みについても触れました。福岡県で活動する樋口氏は、過去に実施したさまざまなアンケート結果をもとに支援センターの存在価値や可能性を示したうえで、相談支援、支援する人材の育成、関係者のネットワークづくり、発表機会の確保などFACTでの主な事業内容を解説。支援センターの役割は、当事者や支援者に対して環境整備や権利擁護、発表機会の創出などがありますが、もう一方で生まれた作品を社会にアウトプットしていくためのディレクションやマネジメントをサポートすることが大切だと考えています。福岡県内の文化施設と連携して障害のある人たちの鑑賞サポートや発表機会を増やしていくことを目的とした相談会や体験ワークショップを開催しています。


樋口氏による支援センターの「支援」の図。青と赤の囲みで2種類の支援を示している。

 

■対談
3つのテーマで「はっけよい、のこった!」
中間支援に大事なこととは?

広域センターが用意した3つのテーマ「二人が活動を続けるうえで大切にしている思いや考えを教えてください」「よりよい中間支援を行うためには?」「支援センターの『伴走』とは?」について答えながら、中間支援を行ううえで、二人が重視していることが話されました。

 


【テーマ1】
自然と変化していく構造をつくるために

 

――お二人はこれまで20 年以上にわたり、アートと福祉の分野で活動を続けてこられています。大切にしている思いや考え方を教えていただけますか。

(柴崎)私は大学卒業後、奈良県にある「たんぽぽの家」という市民団体で活動を始めました。たんぽぽの家はさまざまな障害のある人が通っていますが、そのメンバーとスタッフとボランティアがみんなで話す文化があって、そこでは友人がほしい、遊びに行きたい、誰かとお付き合いしたいといったごく普通の思いを話したり、それをどう支えられるかをみんなで考えたりしていました。障害のある人も同じ時代を生きる仲間としてともにいられたことが、振り返ると私にとって大切な経験となったと思います。
活動としては、「こうあったらいいな」を実現するために必要なことをシンプルに実施してきただけなのですが、そのためにはさまざまな人の力や戦略が不可欠でした。障害がある人自身の声を原点に、彼らの幸せを思って考えたことが、徐々に制度や政策に反映されていく時代となりました。支援センターという仕組みや制度はそのなかで形になったものですが、それが当たり前になると要綱をベースにルールとして働くこともあり、それが一番こわいですね。今の社会のなかで支援センターがどんな役割を果たしていくべきか、絶えず問題意識を持って歩まなければと思います。職歴が長いほど、フレッシュな感覚を持ち続けることは難しいので、若い人たちの声に耳を傾けながら活動したいです。

(樋口)福祉の世界で働き始めた頃、障害のある人たちが施設や学校に集団で活動していることに違和感を感じていました。福祉は専門的で特殊な仕事ととらえられがちだけれど、社会と分け隔てられてサポートしていても将来は見えないし、地域社会とつながりを構築することで、自分らしく生活するための環境を選択できる経験を積んでいくことが大切だと考えています。それぞれの地域でハッピーに過ごしていくためには、人や場所の関係を構築しながら、社会側が障害のある人たちの存在を受け入れて環境を構築しないと状況は変わらないと思いました。まずは一人ひとりの気づきから、その価値観が地域に派生していくことを抱きながらプロジェクトを画しています。地道で時間はかかりますが、継続することに大きな意味があると思います。センセーショナルで大きなプロジェクトが一つあればいいわけではなく、とにかく小さな課題を解決していくためのプロジェクトを他分野の人たちと一緒に実験的にやってくことも大切です。過去の活動に参加した方から、障害のある人を雇用しているとか、家族の介護を躊躇(ちゅうちょ)なくできたなどの話が聞けると、成果の一つとして喜びを感じます。他分野の人たちを巻き込んでいくのは、自分の将来のためにもなると思ってやっています。親や自分自身に介護が必要になったり、子どもが生まれたりといった場面で、支援やボランティアとして手を差し伸べる関係だけではなく、関わることで互いにハッピーになれる、そんな相互関係が増えたらいいなと。楽しく関わるうちに自然に自分ごととして変化していく構造をつくるために、日々努力している感じです。


SOUP の活動のなかで、さまざまな表現の場に出会った。写真は特別支援学校の美術教員が自宅を開放して卒業後の障害のある人たちを支援していた例。

 


テーマ2
環境が変化することが真の公共事業

 

――より良い中間支援を行うことと、その先にある未来について、どのようにお考えでしょうか。

(柴崎)「愛だけじゃ駄目、技術も必要」というのは、よくいわれる言葉です。課題解決のためには、時にはクールな面も必要です。具体的にいうと、例えば厚生労働省の「障害者による文化芸術活動の推進に関する基本的な計画」のなかで示されている支援ガイド(活動のコツ)がありますが、私たちはそれを参考にして活動しています。加えて中間支援として必要なのは、できていないことをきちんとやることです。つまり、自分たちの支援センターの弱みも冷静に把握し、変えていくこと。行政の方たちはエビデンスにもとづいて、必要と判断される仕事に真摯に取り組まれるので、支援ガイドをもとに全国と比較して自分の地域に足りていない部分を明らかにし、翌年の実施計画に活かします。例えば宮城県では年間4~ 5本の研修を行いますが、内容は毎年変えています。今年は「出口戦略が弱い」というデータにもとづき、作品の二次利用や販売に関わる地元企業の方との研修や、文化施設の方向けに支援センターとの連携に関する研修を実施します。
それから「高い次元の公益事業を」というのはたんぽぽの家の理事長であり、エイブル・アート・ジャパンの生みの親でもある播磨靖夫(はりまやすお)さんの言葉です。要は、自分たちの成功事例を他者と分かち合い、できる人を増やす。そうして環境が変化することで初めて公益事業といえる、ということです。作品が発表や販売できた、で終わらずその活動を通じて誰の何を実現したいのか、絶えず先を意識して、目線を遠くにもっていくことが大事だと学んできました。

(樋口)福岡で活動を始めた1997 年頃は、作業所でアートをしていることを地域(特に福祉業界)に理解してもらえていませんでしたが、当時、僕らの思いや考え方を応援してくれる人や場所が全国各地にありました。そのネットワークで教えてもらった「障害は間にある」という言葉は、自分たちの在り方に勇気を与えてくれて、活動を継続する自信になりました。人に言葉で思いや考えを伝えることはすごく大切だと思っています。福祉用語を並べても他分野の人たちには伝わりにくいし、行政が作成した仕様書をそのまま見せても企業には伝わらない。障害者福祉の課題を正しく真面目に社会に提示しても関わり方がわからないんです。僕たちの役割は障害のある人たちと社会の関わり方をクリエイティブしていく立場だと考えています。クリエイティブに変革していくためには、言葉の変換も大切です。「世の中には、行政用語と民間用語とビジネス用語があるよ」というのもネットワークで教えてもらった言葉です。
今、社会で謳(うた)われている「多様性」や「SDGs」は、現在の課題に対するための言葉ではなく、当たり前のことを当たり前にしていく考え方であり、目標にする言葉ではないと思っています。センターの活動は、福祉の枠のなかでの障害者支援にとどまらず、柔軟な関係を構築していく社会づくりとして、とても有効な活動です。そういった役割を社会で担える存在として、自分たちで新たな価値をつくっていくことも必要だと思います。

(柴崎)播磨さんには、「行政語、企業語、市民語の3つの言語を持って」と言われていましたよね。日本NPOセンターの顧問のお一人である山岡義典(やまおかよしのり)さんが、協働の概念を図で示していますが(下図)、本当の協働は、市民団体の活動領域と自治体の活動領域が拮抗するところにあって、そこでは互いに対等の関係です。地域に不足している仕組みづくりや、そこにどう予算を使うかといった議論は、行政からの委託事業であっても、本来は対等の立場で行うのが支援センターの役割であり、それを担う法人の責任です。
また、NPOや支援センターと同様に、行政や企業にも、それぞれに理念や行動原理、特性があります。どう仕事を分かち合っていくか、相手の目を見ながら活動することが大切です。行政語、企業語、市民語というそれぞれとの対話のための言語とともに相手の理念や行動原理、特性も学んで、協働の仕方も巧みに使い分けていくべきです。


地域の社会サービスの供給における市民団体と自治体の役割分担の諸領域の図。山岡義典『時代が動くとき―社会の変革とNPO の可能性』(1999年、ぎょうせい、p.131)より。A=市民団体あるいは民間だけでやる領域、B=民間が主体で行政は民間の主体性を活かしながら関わっていく領域、C=行政と民間が対等な関係で事業を行う領域、D=行政がやり方を決めて民間団体に委託したり委任したりする領域、E=行政が責任をもってやる領域。

 


テーマ3
中間支援の「伴走」のあり方

 

――支援センターの相談事業では、「どこまで踏み込むべきか」が悩みどころです。中間支援の「伴走」とはどうあるべきか、お二人のお考えを教えてください。

(樋口)運営している「工房まる」では、スタッフに対して「支援とは伴走すること」と伝えています。目的地に行く意思はあくまで本人が選択するのであって、目的や欲求に向かうスピードを調整したり、道中で見えるいろいろな景色や出来事を互いに楽しんだり悩み合いながら、目的に向かっていくことが伴走型の支援であると。安全な道を先に渡って「安全だから」といって後について来てもらうようなことは支援じゃないと思うし、その道を歩んできたという実感が生まれないんです。アセスメント作成やケース記録など大変な仕事はたくさんあるのですが、そもそも人と人が交わすコミュニケーションにマニュアルはないわけで、さらにいうと、それを福祉の専門家が全部引き受けることもしなくていいわけで、それぞれの「〇〇したい」を地域の人や場所とつながりながら解決していくことが、センターに期待されている部分だと考えています。伴走する人を地域で増やすことを目指しながら、さまざまな声に耳を傾けるのが大切です。

(柴崎)その悩みがあることが、支援センターがきちんと相談者の課題に対峙できている証拠だと思います。すぐに解決できなかったり、どこまでやるべきか判断がつかなかったり、疑問が出てくるということは、まだそこに支援センターの実践知がないということ。それはセンターが活動すべき領域で、共に活動する人たちを増やせるチャンスでもあるから、私はそれにワクワクしてしまいます。「センターができていないこと」の発見によって、これまで支援につながらなかった方やご家族につながれるかもしれないのです。
ちなみに、私たちは新たに支援につながった個人や、新たな福祉施設がどれだけ関わったかを、宮城県の報告の際に具体的な数値で出します。前年までは全くアプローチしてこなかった方や施設が研修に参加していたら、研修の立て方が成功して、新しい仲間や協働者が増えたということだからです。

――活動を手放す、ほかの人に渡していくことについて、そのタイミングなどありますでしょうか。また、NPOの事業のなかで特に重視していることもあれば、教えてください。

(樋口)継続できる環境がその地域でできた場合は、その地域の担い手に引き継いでいきたいと考えています。当センターでは、文化施設関係者に対して障害のある人たちが鑑賞や発表できる環境構築のためのワークショップにチャレンジしていますが、それが始められたのは文化施設関係者とのつながりが生まれ、このような活動に対して興味がある人と出会ったからです。そういったキーマンと一緒に企画を考えることが重要かなと。FACTでは、アートサポーター養成講座や現場体験ワークショップなどの研修会にも力を入れていますが、毎回僕たちには裏テーマがあり、その地域で今後も一緒に活動をできる人を見つけるということなんです。いずれは福岡県内の4地区にハブ的な団体ができて、相互につながりながら各地区でより良いサポートができればと思いながらやっています。

(柴崎)社会の動きを読みながら活動することも大事だと思います。我々の法人は支援センター事業以外にもさまざまな事業を行っていて、それが支援センター事業に活きることも多いからです。身近な地域社会で、今、何が問題で誰が苦しんでいるのか。そこに福祉や文化のNPOができることは何かを考えて行動すること。また活動のなかで、課題が一旦落ち着いたときにその事業を縮小するか、別の課題に取り組むかを考える、それが大切だと思います。

 


展覧会や上映会、ワークショップ、グッズ販売などを行った「ツナガル アートフェスティバルFUKUOKA」(2022年、博多阪急)にもFACTが協力


FACTによる芸術文化活動を支援する人材を育てる、文化と福祉のマッチングプログラム「現場体験ワークショップ」(2021年)

 


<研修参加者アンケートより>

・市民団体関係者や県だけでなく、政令指定都市も参加する協力委員会の設置によってネットワークを構築し、協働を進めていることについて参考になった。(ブロック内自治体職員)

・自治体として計画や制度に注視することが多いが、実際の現場の意見は大変貴重だと感じた。(ブロック内自治体職員)

・私どもは県とのつながりはあるが、自治体や他文化施設等との連携はできておらず、中間支援業務として、つなぎ役としての方向性があり、目指していくことを検討したい。(他ブロック支援センター職員)

・お二人共アプローチは異なるけれども、根っこの、芯となる考え方は同じなのだということを感じられて面白かったです。地域によって様々な状況がある中で、この芯の部分を共有していくことはとてもいいなと思いました。(他ブロック支援センター職員)

・いつも他府県の様子を聞くと焦ったりするのですが、結局は地道にするしかない、というのを聞いてホッとしました。(他ブロック支援センター職員)

 

(構成:坂本のどか)