南関東・甲信ブロック合同企画展2023 撮影:鈴木広一郎
神奈川県障がい者芸術文化活動支援センター
アートセンター集 撮影:鈴木広一郎
東京アートサポートセンターRights(ライツ) 撮影:たかはしじゅんいち
YAN 山梨アール・ブリュットネットワークセンター 写真:本杉郁雲
千葉アール・ブリュットセンター うみのもり
南関東・甲信ブロック合同企画展2023 撮影:鈴木広一郎
神奈川県障がい者芸術文化活動支援センター
アートセンター集 撮影:鈴木広一郎
東京アートサポートセンターRights(ライツ) 撮影:たかはしじゅんいち
YAN 山梨アール・ブリュットネットワークセンター 写真:本杉郁雲
千葉アール・ブリュットセンター うみのもり

その根底にあるのは、一人ひとりが主体的に生きていること、豊かに生きていること。楽しく暮らしていること。
障害のある人の芸術文化活動の支援とさらなる普及を目指し、
南関東・甲信ブロック内の支援センターと共働により広域での活動を展開します。
もっとみる

研修「教育機関との連携と多様なアートの学びについて考える」

開催日:2023年8月9日(水) 会場:オンライン 参加者:19名

================================
当日のスケジュール
14:00 こまちだたまお氏レクチャー
14:30 田中真実氏レクチャー
15:00 グループワーク
15:30 グループワークの発表、オブザーバーからのコメント
================================

 


■概要
支援センターの事業を推進するためには多分野との連携が不可欠。本ブロックの二つの支援センターから2名の講師を迎え、教育機関との連携の意義や支援センターとして必要な視点を学び合いました。千葉県の支援センター、千葉アール・ブリュットセンターうみのもりのこまちだたまお氏と、神奈川県の支援センター、神奈川県障がい者芸術文化活動支援センターの田中真実氏によるレクチャーのあと、後半のグループワークでは、レクチャーの感想や質問点などを話し合いながら、各地の状況などを共有しました。

 
たまあーと創作工房でのワークショップ


■講師

こまちだたまお(株式会社いろだま代表取締役)
1971年千葉県生まれ。1994年東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業、1996年東京藝術大学美術学部修士課程油画専攻修了。1998年よりたまあーと創作工房こども教室美術教室を開設し、1歳から200歳までのボーダーレスなアートの共育活動に取り組む。2019年には株式会社いろだまを設立し、代表取締役に就任。同年に開設された千葉アール・ブリュットセンターうみのもりに携わり、2020年よりセンター長を務める。2022年4月から千葉県文化芸術推進懇談会委員。


撮影:金子愛帆

田中真実(認定NPO法人STスポット横浜事務局長、副理事長)
大学では地理学、大学院では都市計画を学び、地域と芸術文化の関わりについて関心を持つ。2008年よりSTスポット横浜に入職。文化施設や芸術団体と学校現場をつなぐ横浜市芸術文化教育プラットフォーム事務局、地域文化をサポートするヨコハマアートサイト事務局の運営を横浜市と協働で行う。2020年より神奈川県と協働し、福祉現場と芸術文化をつなぐ神奈川県障がい者芸術文化活動支援センターを運営。芸術文化分野での中間支援のあり方について模索を続けている。

 


 

■研修内容

1.現場での実践を通じて考えた、「教育」と「福祉」の共通点
(こまちだたまお)

千葉県一宮町の造形教室「たまあーと創作工房」を運営しながら、アートの出張授業や大学などと協働して行う地域創生事業などに携わる、こまちだたまお氏。レクチャーでは、教室やワークショップの現場で大切にしていることを中心に話されました。


たまあーと創作工房(青のアトリエ)

あるがままの表現を引き出す、アートの教室

普段は造形教室を運営しているほか、月に25カ所ほどの頻度でアートの出張授業を行っています。保育園や小学校、特別支援学校などの教育分野の施設のほか、福祉分野では、放課後デイサービスや就労継続支援、高齢者や難病の方のための施設などを訪問しています。日々の活動のなかで、かけ離れているようにもとらえられがちな「教育」と「福祉」には重なり合う部分があると感じています。アートはさまざまな答えが生まれるツールであるからこそ、多様な人がアートを通じて時間をともにすることができるからです。

教室に山本実さんが生徒として通うようになったのは23年前。彼にとっていい環境をつくるための方法を、奈良にあるたんぽぽの家が主催する研修会に参加して学びました。その後、また別の障害のある生徒に出会ったり、出張授業を行うなど活動の幅が広がったりするなかで、自身も学びを続けています。教室の方針は、人が「アートで得ること」を常に考え、上手い下手ではなくその人にとってベストな表現を導き出すことです。美術を学んだ学生時代に「もの派」の教授たちに学んだことも大きな影響を受けています。もの派の「すべてのものや行動が表現につながる」という考え方が、障害のある方のあるがままの表現を引き出すことにもつながっているのかもしれません。


制作する山本実さん

 

大学との連携

教育機関との連携の一つに、千葉市にある植草学園大学とのつながりがあります。千葉アール・ブリュットセンターうみのもり(以下、うみのもり)の特別顧問でもあり同大学の発達教育学部で教える野澤和弘先生のご縁で、うみのもりの人材育成講座や展覧会の運営には学生ボランティアの協力を得ています。特別支援教育を学んでいる学生でもあり、実習とは違う現場のあり方を体感してもらうことができていると思います。また、障害者の芸術文化活動を卒業論文のテーマにしたいという学生に協力したことがきっかけで担当の先生とつながり、その後ワークショップを行ったこともありました。

 

ともに生むクリエイティブな時間

私の役割は、障害のある人の表現の場をつくることと、表現の場をつくる人を育むことの二つがあると思っています。教室の教え子が福祉や医療、教育関係に進学するケースもありますが、アートのおもしろさを知り、アートが人の支えになることを実感した経験は少なからず影響しているかもしれません。

ケアの現場で働いている人には、例えば「この人には絵なんて描けない」というような固定観念をそっと脇に置いてもらいたいと思っています。美術教育者的な資質は必要ではなく、むしろ「敵」と考えても良いかもしれません。必要なのは、その人自身が発しているもの、欲しているものを感知してトライ&エラーを繰り返しながら、ともにクリエイティブな時間を生み出していくこと。相手の表現したいものを受け止め、それをより良くするにはどうすればいいかを考えていくことが大切です。それは、粘土を付け足したり削ったりしながら形をつくっていくような作業にも似ていると思います。

 

 

2.行政と民間が協働する、中間支援の仕組み
(田中真実)

認定NPO法人STスポット横浜のスタッフとして中間支援に関わる、田中真実氏。レクチャーでは現在の仕事に出会うまでの経緯と、神奈川県や横浜市での取り組みについて話されました。

 

学生の頃の興味が中間支援の仕事に

大学生の頃、芸術や文化が専門だったわけではなく、地理学とまちづくりを学ぶなかで地域に向けた視点に興味を持っていました。まちなかで展開する大道芸イベントや中高生向けの演劇ワークショップに学生ボランティアとして参加したことがきっかけで、子ども向けの活動や演劇に携わるようになりました。その後、障害のある人とない人が同じ立場で制作する演劇作品に参加して、舞台手話通訳の可能性を知ったり、水俣病を題材にした演劇で差別や偏見などとの向き合い方を考えたりして、福祉への関心を持ちました。NPO法人STスポット横浜には2008年から勤務しており、当初から文化施設・芸術団体と学校の連携による教育普及事業を担当しています。ここでは二つの事例を紹介いたします。

 

「アーティストが学校へ」出張する教育普及授業

2004年にスタートした「横浜市芸術文化教育プラットフォーム『アーティストが学校へ』」は、芸術家が直接、学校へ出かける仕組みです。横浜市の事業として当法人が事務局を担い、年間およそ140を超える学校で実施しています。音楽や美術、演劇、ダンス、伝統芸能など、幅広い分野を体験型または鑑賞型のプログラムで提供しています。横浜市では大きな文化施設が中心部に集中しており、市域も広いため、子どもが自分たちだけで文化施設に出かけるのは難しい状況です。学校の授業に組み込むことで、子どもたちへの芸術文化体験の最低保障を行いながら、アートを身近に感じてもらうことを目指しています。またそれを支える大人たちとどう連携していくかにも重きをおいています。

地域の文化施設や芸術団体が、学校での実施内容を調整するコーディネーターを担っていることも特徴です。大きな目的はそれぞれの学校の実情に応じ、コーディネーターの専門性を生かしながら子どもたちにとって効果的なプログラムを検討してもらうこと。さまざまな施設や団体と協働することでプログラムの種類に広がりが生まれています。

横浜市芸術文化教育プラットフォーム「アーティストが学校へ」

 

県内の福祉施設へのアンケートをもとにつくった本

次に2023年に神奈川県障がい者芸術文化活動支援センターから発行した『いっしょにたのしむおさんぽマップ障がい福祉とアートが出会うところ』を紹介します。これは福祉施設に対して行った「神奈川県内福祉施設への芸術文化活動に関する調査」をもとに、神奈川県内の芸術文化活動に取り組む福祉施設をマップと一緒に掲載した冊子です。多様な人が訪れやすい文化施設の情報もあわせて載せています。学校卒業後の進路を検討する際、食事や交通などの条件で決められがちな福祉施設を「アートの活動ができる施設に通いたい」といった要望にも応えられたらと考えました。

『いっしょにたのしむおさんぽマップ 障がい福祉とアートが出会うところ』

(構成:彌田円賀)