南関東・甲信ブロック合同企画展2023 撮影:鈴木広一郎
神奈川県障がい者芸術文化活動支援センター
アートセンター集 撮影:鈴木広一郎
東京アートサポートセンターRights(ライツ) 撮影:たかはしじゅんいち
YAN 山梨アール・ブリュットネットワークセンター 写真:本杉郁雲
千葉アール・ブリュットセンター うみのもり
南関東・甲信ブロック合同企画展2023 撮影:鈴木広一郎
神奈川県障がい者芸術文化活動支援センター
アートセンター集 撮影:鈴木広一郎
東京アートサポートセンターRights(ライツ) 撮影:たかはしじゅんいち
YAN 山梨アール・ブリュットネットワークセンター 写真:本杉郁雲
千葉アール・ブリュットセンター うみのもり

その根底にあるのは、一人ひとりが主体的に生きていること、豊かに生きていること。楽しく暮らしていること。
障害のある人の芸術文化活動の支援とさらなる普及を目指し、
南関東・甲信ブロック内の支援センターと共働により広域での活動を展開します。
もっとみる

事例報告「鑑賞支援を考える」


第4回ブロック会議にて事例報告を行い、近年、多くの支援センターで課題となっている鑑賞支援について、ゲストを2名迎えて4 組から事例をお話しいただきました。

■開催日: 2021 年 11 月 15 日(月)14:00 ~ 17:00
■会場:オンライン
■参加者: 21 名(ブロック内支援センター、県職員、厚生労働省)


事例報告①「アクセシビリティを念頭に置いたオンラインシアター」

■報告者(ゲスト)
兵藤茉衣(株式会社precog)

■内容
国内外のイベント企画・運営を行う制作会社で2021年度の本事業において全国連携事務局を担う、株式会社precog。バリアフリーコミュニケーション事業部を持つことから、オンラインシアターの取り組みについて報告しました。
株式会社 precog では、日本財団が主催する「True Color Festival 超ダイバーシティ芸術祭」の事務局運営の受託をきっかけに、専門の部署を設けバリアフリー事業を開始。翻訳や字幕対応などを取り入れたバリアフリーな芸術祭を目指していたものの、新型コロナウイルスの影響を受け、中止を余儀なくされました。そこで、オンラインをバリアフリーの 1 つのあり方と捉え、新たな事業として立ち上げたのが、アクセシビリティを念頭に置いたオンライン劇場「THEATRE for ALL」(以下、TfA)です。舞台作品をはじめとしたあらゆる作品を、動画配信で楽しむことができ、バリアフリー日本語字幕や多言語字幕、音声ガイド、手話通訳など、何かしらのアクセシビリティが付加されているほか、TfA での配信を前提として、制作段階からアクセシビリティを念頭に置いてつくられた作品もあります。一方で、もともとの作品以上に情報をのせてしまうと、作品の見方を限定することにもなりかねないため、アクセシビリティを付加するあんばいは難しく、制作の際には専門家や当事者を交えて検討を重ねています。
加えて、オンラインでつながることが難しい、例えば福祉施設の入居者などを対象に、出張上映プロジェクト「劇場をつくるラボ」も行っており、その際には施設の協力のもと、鑑賞方法についての研究や実践の場として、さまざまな手法を試みているといいます。




写真上:「THEATRE for ALL」チラシ、中:「劇場をつくるラボ」の様子 撮影 : 内田伸一郎、下:「劇場をつくるラボ」の様子 撮影 : 内田伸一郎

THEATRE for ALL
https://theatreforall.net/


事例報告②「劇場のアクセシビリティ」

■報告者(ゲスト)
岸本匡史(公益財団法人としま未来文化財団)

■内容
豊島区立の劇場ほか、生涯学習施設など様々な施設の管理運営、文化事業を担っている。豊島区立舞台芸術交流センター(あうるすぽっと)での劇場としてのアクセシビリティや障害のある人との共同制作について紹介しました。
舞台作品の企画制作に長く携わる岸本匡史氏から、まずは公共劇場におけるアクセシビリティとして、劇場までの点字ブロックや多機能トイレをはじめ、難聴者支援装置、筆談機などさまざまな設備の必要性が示されました。一方で、劇場を対象とした障害者対応に関する調査では、特別な対応ができていないにも関わらず、問題が起きたことがない施設が多かったといいます。それはつまり、そもそも劇場に足を運ぶ障害者が少ないということです。そのほかの調査でも同様の状況が浮き彫りになったほか、どのように障害者対応をすればよいかわからず、専門家の協力を必要としている様子も見えてきたといいます。
後半では、岸本氏が携わった作品におけるアクセシビリティについての紹介がありました。 2016 年に制作した作品『ノイズの海』は、ろう者の振付家による作品です。制作段階からアクセシビリティを意識し、ろう者も健聴者も一緒に作品を楽しめるように、作品の演出として字幕や手話を織り交ぜ、振動を感じやすい低音スピーカーを客席に配置しました。受付での手話対応や障害者割引も設けました。また 0 歳から鑑賞可能な舞踏作品を上演した際は、客席から声があがる前提で皆が了解していたので、知的障害のあるグループも受け入れました。そのほか障害当事者による障害理解啓発講座なども開催しているといいます。

公益財団法人としま未来文化財団
https://www.toshima-mirai.or.jp/


事例報告③「ダンスや音楽のオンラインワークショップ」

■報告者
田中真実、川村美紗(神奈川県障がい者芸術文化活動支援センター)

■内容
「つなぐ」「つくる」「支える」の 3 つの柱で、障害者が身近な地域で芸術文化活動に触れることができるようサポートする同センターのワークショップ実施事業からみえる鑑賞支援について報告しました。
同センターのワークショップ実施事業では、重度重複障害や精神障害のある方との取り組みに焦点を当てています。ほかの障害に比べ、文化施設へのアクセスの困難さや整備・支援の遅れがあるためです。紹介された事例の1つは、平塚市の生活介護サービスを行うNPO法人スプラウトに向けて、オンラインで実施したダンスワークショップ。2020年、ダンサーの白神ももこ氏とともに、身体をとおした表現を体験しました。初回、映像の鑑賞のみでは実感が湧きにくいことがわかり、2回目以降はパフォーマーが頭につけた飾りなどのアイテムを事前に施設に送るなどして、同じ時空間を共有している感覚を味わえる工夫をしました。
2つ目は、精神障害のある方々で結成されたバンド「THE PUSH」と、作曲家の西井夕紀子氏との取り組みでミュージカルの創作および発表をしました。バンドはそれ以降も活動を継続し、精神科病院の長期入院患者に向けたコンサートなどを実施しています。
これらの実践からみた鑑賞支援に重要なこととして、「感覚を共有するための工夫」「実施の際には支援者も一緒に楽しむ」「芸術文化関係者との連携の必要性」が挙げられました。



写真上:オンラインで実施したダンスワークショップの様子 撮影:金子愛帆、下:バンド「THE PUSH」活動風景

神奈川県障がい者芸術文化活動支援センター
https://k-welfare.org/


事例報告④「児童養護施設の子どもたちとの美術館での鑑賞会」

■報告者
こまちだたまお(千葉アール・ブリュットセンター うみのもり)

■内容
千葉アール・ブリュットセンター うみのもりからは、児童養護施設、一宮学園(千葉県長生郡)の子どもたちを対象に東京都現代美術館で行った鑑賞会や佐倉市立美術館での展示について紹介しました。
一宮学園の子どもたちを対象に美術館で本物の作品に出会う、作品から感じたことを言葉にすることなどを目的に、遠足の延長としての鑑賞会を実施しました。運営は、アートのつなぎ手として活動とする「アート・コミュニケータ東京(アートコ)」が協力。鑑賞を経て、表現の多様性を知った児童からは、「また行きたい」との声も挙がり、鑑賞した作品を参考に、後日作品をつくった児童もいたといいます。また、普段から外出や他者と関わる機会が少ない児童たちにとっては、エレベーターに乗る経験や、アートコのメンバーなど第三者と関わる楽しみを知る機会にもなりました。加えて、2021年11月に佐倉市立美術館で開催した展示について紹介。また、障害者でも鑑賞しやすい環境について、設備環境の改善や、他の来場者に配慮を求める掲示の作成など、福祉事業所職員の専門的な観点からの意見を美術館と協議する機会になっていると話しました。

千葉アール・ブリュットセンター うみのもり
https://uminomori.net/


■参加者からのコメント
・神奈川県障がい者芸術文化活動支援センターの報告は、支援者自身が体験し、価値を見出していくことが活動の継続や鑑賞機会の創出につながるよい事例で、勉強になりました。
・株式会社 precog の「鑑賞支援に正解はない」というお話を伺い、個々への鑑賞体験を考えることにあるクリエイティビティを改めて感じました。

(構成:坂本のどか)