南関東・甲信ブロック合同企画展2023 撮影:鈴木広一郎
神奈川県障がい者芸術文化活動支援センター
アートセンター集 撮影:鈴木広一郎
東京アートサポートセンターRights(ライツ) 撮影:たかはしじゅんいち
YAN 山梨アール・ブリュットネットワークセンター 写真:本杉郁雲
千葉アール・ブリュットセンター うみのもり
南関東・甲信ブロック合同企画展2023 撮影:鈴木広一郎
神奈川県障がい者芸術文化活動支援センター
アートセンター集 撮影:鈴木広一郎
東京アートサポートセンターRights(ライツ) 撮影:たかはしじゅんいち
YAN 山梨アール・ブリュットネットワークセンター 写真:本杉郁雲
千葉アール・ブリュットセンター うみのもり

その根底にあるのは、一人ひとりが主体的に生きていること、豊かに生きていること。楽しく暮らしていること。
障害のある人の芸術文化活動の支援とさらなる普及を目指し、
南関東・甲信ブロック内の支援センターと共働により広域での活動を展開します。
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研修「広報物のアクセシビリティについて考える」

■開催日:2024年 9月 11日(水)14:00 ~ 16:00
■会場:オンライン
■参加者:23名


支援センターではパンフレットやチラシ、ウェブサイト、SNSなどで情報を発信しています。株式会社precogの兵藤茉衣さんと篠田栞さん、領家グリーンゲイブルズの畠山邦男さんを講師に迎え、情報を発信する側と受け取る側の両方の視点から、より広く情報を届けるための広報物のアクセシビリティについて考えました。後半のグループディスカッションでは、レクチャーの感想や質問点などを話し合い、各地の状況を共有しました。


上: 日本語字幕、音声ガイド、手話通訳、多言語対応などを施した映像を配信する
『THEATRE for ALL』
下:領家グリーンゲイブルズ

■講師

兵藤茉衣、篠田 栞(株式会社precog)
ひょうどう・まい(左):2015年よりアーティストマネジメントや、アドミニストレーションを担当。2019年「True ColorsFestival―超ダイバーシティ芸術祭―」事務局運営統括を経て、THEATRE for ALL設立時、企画・運営統括。2021年より厚労省障害者芸術文化活動普及支援事業全国連携事務局(舞台芸術分野)を担当。
しのだ・しおり(右):京都大学文学部美学美術史学専攻卒業。広告代理店、デザインコンサルティングにて、新規事業、企業ブランディングに携わり、独立。編集ライター、ファシリテーション等を行う。THEATRE for ALL設立時、コミュニケーションチーム統括、ウェブサービスの設計やコミュニティデザインの領域からprecog事業に参画。


畠山邦男(認定NPO 法人みのり 領家グリーンゲイブルズ)
はたけやま・くにお:認定NPO法人みのり 領家グリーンゲイブルズ アートディレクター、問いかける表現ラボ代表。
ニューヨーク市立大学で美術を専攻し学士取得、T. Schreiber Studioにて演劇演出のノウハウを学ぶ。現在は、障害のある人たちや異なる年齢・文化・背景の人々と、多様性から生まれる演劇創作・アート活動などに取り組む。社会の常識にとらわれない自由な発想やエネルギーの力強さ、奥深さに魅了され、表現の魅力を最大限に伝えるべく、苦慮しつつも楽しみながら日々模索中。関わり合いから芽生える豊かさと生の重みを貴び、新しい価値観の創造やインクルーシブな環境づくり、共生社会の実現を目指している。


Lecture 1 アクセシビリティの検討を通じて生まれるコミュニケーション

国際交流や福祉、地域活性など多角的なアプローチでアートプロジェクトの企画・運営を行っている株式会社precogの兵藤茉衣さんと篠田栞さん。「THEATRE for ALL」などの事例紹介を通して、アクセシビリティの考え方を話されました。

当事者とともに考え続ける、アクセシビリティ

precog が運営しているバリアフリー型動画配信プラットフォーム『THEATRE for ALL』は、「劇場体験に、アクセシビリティを」をミッションに、さまざまな人に映像作品を楽しんでもらうことを目的としています。その実現のため、サービス設計の段階で全国のさまざまな障害の当事者団体に意見を聞きました。そのなかで「タイトルにある『ALL』とは誰のことなのか。誰に向けてのサービスかを示さないと当事者に届かないのでは」という指摘をもらったと話す兵藤さん。例えばウェブ上で色のコントラスト比がJIS 規格の基準を満たしていても、組み合わせによって見やすかったり見えにくかったりするなど、個人差があることがわかりました。
こうしたあらゆる意見を聞きながらもウェブデザインの落としどころを探った経験を踏まえ、篠田さんは「アクセシビリティには正解がありません。決めつけず、当事者との対話を続け、考え続けることを大切にしています」と話しました。「対話のプロセス」を大切にしていることをprecog では積極的に発信しています。「誰にとっても完璧な配慮や調整はできません。プロジェクトごとに、障害の当事者や専門家の意見を取り入れながら、できることをやっていく。その姿勢を示すことを大切にしています」と篠田さん。そして、アクセシビリティを高めることは、障害のある人や日本語が母語ではない人に対して回路を開くだけではなく、誰にとってもこれまで気づかなかった世界の見え方に気づくきっかけになると考えて取り組んでいることが話されました。
最後に、さまざまなプロジェクトで蓄積されたノウハウを共有する方法が紹介されました。ノウハウやスキルが属人的になってしまうことを避けるため、precog では「バリアフリーwiki」というドキュメントに記入して社内メンバーで共有しています。「こういう方法で告知した」「ウェブ予約はこのシステムが使いやすい」など、気づいたことなどを随時更新しているそうです。


東京芸術祭「EPAD Re LIVE THEATER in Tokyo ~ 時を越える舞台映像の世界~」マームとジプシー『cocoon』ユニバーサル上映会、2023 年 撮影:宮田真理子


Lecture 2 個別や対面による情報発信の重要性

畠山邦男さんは、埼玉県上尾市にある領家グリーンゲイブルズを拠点に、視覚障害のある人の生活介護や就労支援を行いながら、利用者の社会参加の場として演劇発表会などを開催しています。レクチャーでは、視覚障害のある人がどのように情報を得ているかが話されました。

細分化される視覚障害の種類

「視覚障害は個人差があるため、一般化して言えることと個別のケースで語らないと伝わらないことがある」と話す、畠山さん。視覚障害の種類は、大きく全盲と弱視に分けられ、全盲のなかでも光を感じられるか感じられないかなどで細分化されること、天候や暗闇などの条件下では弱視の人でも全盲に近くなる場合があるといったことが説明されました。読み書きをするのが難しい視覚障害者は、触覚や聴覚などの感覚を駆使して情報を得ていると言います。全盲のなかでも、先天性と中途障害でも世界の見え方が大きく違うとのことです。領家グリーンゲイブルズでは、支援の際、利用者の障害の内容に合わせて個別に対応しています。
畠山さんは「盲人のための国際シンボルマーク」を紹介し、チラシなどの広報物をつくる際にはこのマークを使うとよいのではないだろうかと話しました。

領家グリーンゲイブルズの日常

施設ではどのように情報を伝えているか

視覚障害のある人への情報伝達について、施設での実際の様子が伝えられました。畠山さんは、「利用者への連絡は口頭が中心ですが、それぞれの障害に合わせた対応が中心です」と話します。保護者への連絡を含め行き違いがないようにしたい場合は、メールやLINE も使っています。点字は、中途障害者には習得が難しいものの、情報を伝える手段の一つとしてあったほうがよいと話しました。また、フォントによっても読みやすさが異なるそうです。「明朝系や和風、丸みのある書体は認識しづらいという声がある」「角ゴシックは太さが比較的均一でくっきりしているので読み取りやすい」「数字の3・6・8・9 が見分けにくい」といったことが伝えられました。また、「最近はUD デジタル教科書体が見やすいと評判で、一番よく使っている」とのこと。
ただし、すべての人に対応できるわけではないので注意が必要です。そして若い人は、「プライベートではチラシをほぼ利用せず、スマホの読み上げ機能を用いてSNS を利用することが多い」傾向があるそうです。また、視覚障害があると芸術は楽しめないという固定観念が強いことに触れ、友人や知人からの「おもしろい」という口コミがあれば興味をもつきっかけになるのではないかと話しました。
「芸術関連情報を視覚障害のある人に届けたい場合は、チラシを活用するよりも、公的機関の広報誌の点字や音声案内、視覚障害者団体などのメーリングリスト、ウェブサイト、SNS を活用すると効果が高いのではないでしょうか」と、畠山さんはまとめます。そして、個別や対面での案内を希望する障害当事者も多くいるため、少しずつでも視覚障害のある人たちとのつながりをつくることの重要性について指摘しました。


利用者とスタッフでつくる演劇発表会。1 年に1 回開催し地域の人や家族などに披露している

(構成:彌田円賀)